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スポーツをする前に知っておくこと

スポーツをする前に知っておくこと

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身体を動かすことは健康によいとされていますが、日々の生活で運動が習慣化されていない方などがスポーツやアクティビティを始める場合、いくつか気をつけておかねばならない事があります。時にはインストラクターなどがその場でレクチャーしてくれますが、前向きな気持ちで始めた運動で思わぬ事態を引き起こさないためにも、ぜひ覚えておきましょう。

今回は、Jリーグ屈指の強豪「川崎フロンターレ」でフィジカルコーチを務める篠田洋介さんが高知を訪れ、フィジカルトレーニングのポイントや重要性、プロ選手たちが日々取り組んでいる様子などを教えていただくと共に、スポーツやアクティビティを始める前に知っておくこと、気をつけることについてアドバイスをいただきました。

はじめに

スポーツを通じて地域活性化をサポートする「(一社)高知県スポーツコミッション」の企画のもと、篠田さんが高知県内の小学生~高校生まで計6チーム、男女のべ200名を超える学生達に、1チーム90~120分程度、効果的なストレッチや体幹トレーニング、ボールを使ったフィジカルトレーニングなど、選手の年齢に合わせたメニューでトレーニングを指導。

トレーニング指導と併せて、日頃運動になじみのない方が、様々なスポーツやアクティビティを体験する際に知っておくこと、気をつけることについてアドバイスをいただきました。

これからスポーツや運動を始めたいなと思っている方はもちろん。既に取り組んでいる方にも、プロサッカー選手を指導するフィジカルコーチの立場でのお話はとても参考になります。質問コーナーでは、「FIFAワールドカップ2022カタール大会」で日本中が熱狂した『三苫の1ミリ』など、裏話も交えてお話いただきました。

「アクティビティを始める前に知っておくこと」はこちら

基本となる考え方

まずは基本的にやっておくべき事や心構えについて、教えていただきました。

篠田さん:スポーツやトレーニングに関して、以下のように整理してみます。

  • 事前にストレッチを行うこと 
  • 急激な運動を行なったり、身体に極端な負荷をかけない 
  • インストラクターやコーチの指示に従うこと、器具や用具は正しく使うこと 
  • 十分な睡眠、食事の内容とタイミング 
  • 楽しく、継続することが大切

事前にストレッチを行うこと

スポーツやトレーニングを行う際には必ず事前にストレッチを行うようにしてください。反動をつけたストレッチである「動的ストレッチ」を行うことで、筋肉と神経系統を起こすことができ、ケガの防止につながります。ケガを防止できれば継続的なトレーニングが可能となり、「三日坊主」とならず長続きしますので、まずはストレッチから大切に行ってみてください。
また、ストレッチを念入りに継続的に行うだけでも、関節の可動域が広がり筋肉の活動量が増えるので、血流や代謝が増え、健康増進やダイエットにも非常に効果的です。「たかがストレッチ」と思わず取り組んでみてください。

急激な運動を行なったり、身体に極端な負荷をかけない

スポーツやトレーニングをすることが習慣化されていない人に特に気をつけてほしいことは、身体への負荷です。健康増進やダイエットのため一念発起し「さぁやるぞ!」と急激な運動を行なったり、極端な負荷をかけたトレーニングを行なうと、大きなケガにつながる可能性が高まります。スポーツやトレーニングを継続し習慣化されるまでは、徐々に負荷を高めていくことをお勧めします。
具体的には、重いオモリを持ち上げるなどの瞬発系(無酸素運動)トレーニングよりも、ウォーキングやジョギング、水泳などの有酸素運動がお勧めです。加齢とともに速筋(瞬発系、無酸素運動)は衰えやすくなるため、運動開始時期等は遅筋(持久力系、有酸素運動)を使ったトレーニングだとケガのリスクも減り、ケガがなければ継続的な運動が可能になります。また、有酸素運動を長く続けることで体内の糖や脂肪を燃焼させエネルギーに変えることで、ダイエットにもつながります。

インストラクターやコーチの指示に従うこと、器具や用具は正しく使うこと

ケガの防止、安全の確保の観点で、器具や用具を正しく使い、またインストラクターやコーチの指示には必ず従ってください。

十分な睡眠、食事の内容とタイミング

スポーツ科学の研究により、十分な睡眠が休息につながることや、身体や筋肉に好影響を及ぼすことが分かっています。日ごろから十分な睡眠を確保することはもちろんのこと、良質な睡眠を取るために、夜更かしをせず適切な睡眠時間を確保し、寝る前30分前はスマホから離れることで脳への刺激を抑えることも効果的です。
また、スポーツと食事は切っても切れない関係にあり、適切な食事が好パフォーマンスにつながります。Jリーグでは、試合前の3時間前を目安に「プレマッチミール(試合前の食事)」を摂ります。遅くなれば消化が間に合わず試合に悪影響を及ぼすこともあり、早すぎても効果が薄れるため、スポーツやトレーニングの2時間~3時間前には食事を終わらせておくと良いと思います。また、プレマッチミールでは脂肪分は極力避け、消化が遅く身体を冷やすこともある野菜やサラダも避ける傾向にあります。ご飯やパスタなどの炭水化物、脂肪分の少ない鶏肉などのタンパク質を主に摂取するようにしています。いずれもエネルギー源となる食べ物ですので、試合やトレーニング前には効果的です。試合後やトレーニング後は、壊れた筋肉組織の修復が必要ですので、極力早めに食事を摂ることをお勧めします。

楽しく、継続することが大切

何よりも「継続すること」が大切です。ケガをしてしまったり、そのスポーツやトレーニングから離れてしまうと、筋力や心肺能力が衰え、また再開した時にケガにつながり悪循環に陥ってしまいます。継続できるように「楽しみ」を見つけることも1つですし、負荷を低く設定してでも、長く継続的に取り組むことが大切です。
以前指導していたクラブでは、ベテランと呼ばれる年齢の選手が主力に多く、「(フィジカルコーチとして)大変ですね」と周囲から言われることも多かったのですが、その年齢まで現役を続けることができている選手ですから、日々の自己管理がしっかりできていて、ケガなく1シーズン過ごすことができ、選手としてもチームとしても好成績を残すことができました。やはり「ケガをしない」ことで、日々のトレーニングに参加でき、そのおかげでパフォーマンスも維持向上できていました。プロもそうですし、一般的なスポーツやトレーニングも継続することが大切です。「継続は力なり」とはよく言ったものですが、何度もそのシーンを見て、体験してきました。

応急処置

篠田さん:ケガの状況や度合いによって対処は異なってきますが、以下を心がけてみてください。

  1. ケガや事故に遭遇(もしくは目撃)したら、まずは自分自身の安全を確保する(二次被害の防止) 
  2. ケガ人の状況を把握し、可能な限り周囲に応援を求める(自分一人で対処しない) 
  3. 応援者がいたら、救急車や警察への通報や処置など、役割を分担する 
  4. 救急隊員の指示に従い行動する 
  5. ケガに対する基本的な応急処置「RICE」
    R:Rest(安静)
    I:Ice、Icing(冷やす)
    C:Compression(圧迫)
    E:Elevation(患部の挙上)

※応急手当に関する情報については以下からもご確認いただけます。万が一ためにもぜひご覧ください。

◯政府広報オンライン
「いざというときのために 応急手当の知識と技術を身につけておきましょう」
https://www.gov-online.go.jp/useful/article/200801/1.html

◯消防庁
「一般市民向け 応急手当WEB講習」
https://www.fdma.go.jp/relocation/kyukyukikaku/oukyu/index.html#

◯日本サッカー協会
「メディカル」
https://www.jfa.jp/medical/

質問コーナー

トレーニングの中で出た学生たちから篠田さんへの質問についてご紹介します。

Q.三苫選手のドリブルが速いのはなぜですか?普段どんな練習をしていましたか?

A.三苫選手は川崎フロンターレの育成組織出身で、高校卒業と同時にプロになる(トップチームへ昇格する)こともできましたが、長くプロ生活を続けていくためにも自身のサッカーを見直そうと考え、筑波大学へ進学しました。在学中に陸上短距離の先生の指導を受け、サッカーにおける効果的なスプリントを学び実践した結果、現在のプレースタイルにつながっているようです。非常に体幹もしっかりしていてバネもあり、ドリブルのような体重移動が多いシーンでも重心がブレずにしっかり走れています。 

日々のチーム練習においては、いつも全体練習の1時間半前にはクラブハウスに来て、チーム練習が始まる前にバイクをこいだりランニングしたりと、時間を有効活用しながらトレーニングを充実させています。また、チーム練習後もクラブハウスで食事と休息を取った後、再度グランドに出てドリブルやシュート練習など、集中して居残り練習をしていました。そういった努力と継続性が、今の彼の活躍につながっていると思います。

Q.大成する選手は何が違いますか?(筋肉の付き方、取り組みの姿勢など)

A.これまで指導してきた選手、特に日本代表クラスや海外クラブへ移籍したような選手で考えると、加入してきた際の筋肉の付き方は個々に異なりますが、共通する点は「意識が非常に高い、サッカーが好き、自分で勉強(研究・分析)している」点が挙げられます。コーチ側から特に何かを言う前に自分で取り組んでいるし、自分から質問してきますが「こう思うんですけど、どうでしょう?他に方法はありますか?」のように、まずは自分で考え、自分で調べたり考えた上で相談してきます。そういった意味でも、意識が非常に高い選手が多いです。 
トレーニングに限らず、食事にしても睡眠にしても、サッカー以外の過ごし方も、結局は「どうサッカーが上手くなるか」にしっかり向き合っている選手が多いので、その意識の差が大きいのではないでしょうか。

Q.足が速くなるには、どこを鍛えれば良いか?

体幹トレーニング、特に下肢のトレーニングが重要です。スクワットやランジが効果的です。走る行為を細分化すると、 

【地面に強く踏み込む ⇒ 地面を強く蹴る ⇒ 遠くへ飛ぶ ⇒ 次の足で地面に強く踏み込む】 

の繰り返しであるので、下肢の筋力(パワー)で差が出ます。サッカーは陸上短距離走と異なる部分もありますが、短い距離のスプリントの繰り返しとなるので、まずは日々の練習でのスプリントを手を抜かず全力で行い、かつ合間の時間を使ってスクワットやランジ等の下肢のトレーニング、及び上肢(腹筋・背筋・手の振りのため胸筋や上腕筋など)のトレーニングを行うとより効果的です。

Q.ヒザ周辺の筋肉の付け方

ケガからの回復目的、もしくはケガが多い箇所でその予防でしょうか。ケガの具合や回復状況により異なってくるので、かかりつけの医師の指示に従うべきですが、いくつか簡単なものをご紹介します。

①ヒザ伸ばし 

  • イスに深めに座り、右足首を左足首に交差させるように乗せ、左ヒザを基点として右足を持ち上げ上下させる
  • 左右交互に行う 
  • 片足の重さでヒザを鍛える

②タオルつぶし

  • 床に右足を伸ばす形で座り、右ヒザの下に丸めたタオルを置く 
  • ヒザ裏でタオルを押しつぶすようにヒザを伸ばし、数秒停止する
  • 左右交互に行う
  • 右太もも前に力が入っているかが重要なので触って確認する

③ヒザ曲げ

  • 机やイスに前屈みに寄りかかるような形で立ち、太もも裏の筋肉を使い、片足を曲げる
  • 左右交互に行う 

リハビリのような軽めのメニューですが、このような内容が容易であって、歩いたり、ランニングができるようであれば、自体重を使ったスクワットやランジで下肢全体を鍛えることが良いと思います。さらに鍛えたい肩は、片足でスクワットをしたり、自体重だけでなく重りを持ったりで負荷を調整してみてください。

文責:(一社)高知県スポーツコミッション

最後に

「FIFAワールドカップ2022カタール大会」に出場した6人もの選手を指導した経験のある篠田さん。具体的な手法や心構えなど様々な視点でアドバイスをいただきました。

 高知県は自然に恵まれ、海・川・山など自然を活かしたスポーツやアクティビティがたくさん体験できます。ケガや事故なく楽しんでいただくためにも、今回ご紹介した「知っておくこと・気をつけること」を心がけていただき、ぜひスポーツを楽しんでみてください!

篠田洋介さんプロフィール

高校を卒業後、アメリカの大学・大学院でコンディショニングを学び、2002年から東京ヴェルディ1969ユース、2003年から14シーズンに渡って横浜F・マリノスでフィジカルコーチを務め、2017年より川崎フロンターレフィジカルコーチに就任し現在に至る。Jリーグのトップクラブでのフィジカルコーチ歴は2023シーズンで20年目に突入するスペシャリストである。 
今回の「2022サッカーワールドカップ・カタール大会」に出場した日本代表選手のうち、三苫薫選手・田中碧選手・谷口彰悟選手など、計6選手を川崎フロンターレで指導している。 
日本サッカー協会公認B級ライセンス取得。 AFCフィットネスコーチプロコース、NSCA-CSCS(認定ストレングス&コンディショニングスペシャリスト)、ViPRトレーナー、Basic Life Support Providerを取得。