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「土佐町スポーツコミッション」古賀智志さんに聞く、スポーツを通じたまちづくり

「土佐町スポーツコミッション」古賀智志さんに聞く、スポーツを通じたまちづくり

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四国のほぼ真ん中に位置する嶺北地方。ここに、西日本随一の貯水量を誇る“四国の水がめ”早明浦ダムと、そのダム湖であるさめうら湖があります。「土佐町スポーツコミッション」は地域の資源であるこの湖を活かし、カヌーやSUP、サイクリングやキャンプといった湖面スポーツやアウトドアアクティビティの推進、地域振興に取り組んでいます。今回は専務理事 事務局長である古賀智志さんに、スポーツを通じたまちづくりについて伺いました。

さめうら湖と土佐町の取り組み

さめうら湖は、西日本随一、四国では最大の貯水量を誇る早明浦ダムの人工湖です。ダムは高知県土佐町と本山町にまたがる吉野川上流に建設され、四国の人々の暮らしや産業を支えてきました。また、湖は全長20km、約7.5平方kmにも及ぶ広大な水面(湛水面積)を有し、雄大な湖面と桜や紅葉といった四季折々の美しい自然が、訪れる人を癒やしています。

湖は近年、湖面スポーツやアウトドアアクティビティのベストスポットとして注目を集めています。しかしかつては、釣り人以外の観光客の姿はあまり見られませんでした。 
どうして今、さめうら湖が多くの観光客を惹きつけているのか。そのきっかけを作ったのは、さめうら湖を活用した地域再生に取り組む土佐町です。

全国の中山間地域は今、人口減少や高齢化が急速に進み、活力の低下が懸念されています。土佐町ももちろん例外ではありません。そこで土佐町は以前から、さめうら湖を観光資源として活用すべく、再生計画を進めていました。その再生計画に明るい道筋を開いたのが、スポーツ競技、カヌーです。

もともとさめうら湖は原則として非動力艇が入れませんでしたが、湖にはカヌーに最適な環境が整っていました。その一つが、周囲を深い山々で囲まれているため、風の影響を受けにくく水面が穏やかであること。二つ目は、1000mの長距離コースを確保できる広大な水面であることです。そこで土佐町はカヌーを通じたスポーツツーリズムの推進やコミュニティスポーツの活性化を計画します。まず湖面を管理する協議会と協議を進め、湖における非動力艇の航行を可能にしました。

さらにカヌーの元世界チャンピオン、ラヨシュ・ジョコシュ氏を指導者として招き、2018年3月、小学生から高校生までを指導するカヌーチーム「さめうらカヌーアカデミー」を創設しました。カヌープロジェクトは実を結び、現在もラヨシュコーチのもと、世界で活躍する選手の輩出を目指して子どもたちが活発に活動を行っています。

土佐町はさらに2020年、湖と周辺を巡るガイドツアーをスタートさせたほか、同年には湖面アクティビティが楽しめる自然体験型の観光拠点「さめうらカヌーテラス」をオープンさせました。また、さめうら湖との一体感を味わえるキャンプ場「さめうらテントパーク」や、レストランを併設する「さめうら荘レイクサイドホテル」を整備。これら3つを総称する「湖の駅さめうらレイクタウン」は、さめうら湖周辺の豊かな自然に触れられる拠点として人気となり、多くの観光客で賑わうようになっています。

土佐町スポーツコミッションについて

「土佐町スポーツコミッション」は、さめうら湖を活用したスポーツやアウトドアアクティビティの運営を担う団体として、2021年4月に設立されました。前述した「さめうらカヌーテラス」「さめうらテントパーク」、さらにカヌーチーム「さめうらカヌーアカデミー」を運営し、カヌーやSUP体験、レンタサイクルといったアウトドアアクティビティを観光客等に提供。湖を中心とした体験学習も行っており、校外学習や修学旅行などに活用されています。

専務理事 事務局長の古賀智志さんは福岡県出身。長年にわたり医療機器メーカーに勤務し、東京を拠点に人事や広報、経営の分野で活躍していました。スポーツとは無縁だった古賀さんですが、ご家族が地域振興・スポーツ振興を学んでいたことを機に、土佐町の活動を知ります。そして2021年、事務局長を公募していた土佐町スポーツコミッションにその経営手腕を買われ、現職に就きました。

持続的な発展のために

古賀さんが東京から移住して2年。運営を手がける「さめうらカヌーテラス」は、人口4000人弱の土佐町湖畔に年間1万3000人もの観光客を集める人気施設となりました。 
のどかで雄大なさめうら湖、洗練されたデザインのカヌーテラス、星空を見上げるテントパーク。一つひとつの魅力が人気につながっており、かつて釣り人しか訪れなかった湖にこれだけの人が集まるようになったことは、地域再生の成功例と言えるかもしれません。
しかし古賀さんは、この場所を観光一色に、あるいはスポーツ一色にしたくないと話します。なぜなら、地域の持続的な発展のためには外から人を集めるだけでなく、地域の人の存在が欠かせないから。地域に根付いてこそ、持続的なまちづくりにつながると言うのです。

地域への思いは、「さめうらカヌーテラス」のコンセプトに見て取れます。カヌーテラスは単なる観光インフォメーションセンターではありません。カヌー艇庫とトレーニング施設を備えるほか、テラス内にはカフェがあり、観光目的でない人も気軽にのんびり過ごせます。

さめうら湖を一望できるジムでは、地元民はもちろん町外の人も格安でトレーニングが可能です。ここは地域の人がスポーツに取り組める場所であり、地域の人がゆっくり過ごせる場所であると同時に、観光で訪れた人が土佐町の自然を楽しめる場所であり、地域の人と交流ができる「地域交流と観光拠点がミックスしたユニークな複合施設」でもあるのです。

スポーツツーリズムの推進や地域振興を託された古賀さんは、湖上スポーツを身近に感じてもらうため地元の小学生に向けた体験メニューを提供する他、カヌーの強豪チームを合宿に招くなど、スポーツを通した交流人口の拡大を図っています。また、地域振興を学ぶ都会の学生を招待して、スポーツに関わるキャリアプランを提示するなど、スポーツ庁とも連携し、中山間地域への人材流入・人材定着につながる活動をしています。

また、近年は「部活動の地域移行」が課題となっています。「部活動の地域移行」とは、今まで公立中学校・高校で教員が実質無償で担ってきた部活動の指導を、民間企業や地域団体に移行する改革のことです。そこで土佐町スポーツコミッションは、課題を解決できないか、検討を進めています。具体的には、子どもたちの多様なスポーツ体験の受け皿として、また休日活動の管理者として、あるいは教育機関とスポーツ講師をつなぐ窓口として、自分たちにできることを模索しています。それらを担うことで、土佐町スポーツコミッションは地域になくてはならない存在になり得る。同時に、収益性を持つ事業者にもなり得る。「持続的な発展ができる運営基盤」をミッションに掲げ、古賀さんは広い視野で土佐町スポーツコミッションの存在意義を考えています。

スポーツを支える者同士、連携を

スポーツ庁は「スポーツを通じたまちづくり」を推進しており、ここ数年、全国各地に「スポーツ×観光×地域振興」を支えるスポーツコミッションが設立されています。それらはほとんどが行政を中心に設立・運営され、例えばマラソン大会やサイクリング大会といったイベントを運営する際、あるいは「さめうらカヌーテラス」のような拠点を建設する際は、行政の役割が必須となります。つまり、スポーツ振興は行政サービスとのバランスの上で成り立っており、スポーツコミッションが一つの団体として何を目的にどう活動していくのか、存在意義を理解してもらうのは簡単なことではありません。また、働く人材の確保やその後のキャリア形成、事業収入の確保など、解決すべき課題は尽きません。

そうした課題に向き合うために、古賀さんは全国のスポーツコミッションのネットワーク作りや連携強化に取り組んでいます。「皆が皆、スポーツをする人でなくていいんです。いろいろな人が支え合いながら連携し、各地域の課題に向き合っていけたら」。スポーツ未経験者だからこそできることがある、そう気づかせてくれる言葉です。

最後に「全国各地のスポーツコミッションで、アウトドアをリードする人材に活躍してもらいたい。それが地域の活性化につながるのだと思います」と話してくださった古賀さん。中山間地域におけるスポーツ振興や持続的な地域振興に新たな指標を照らす、古賀さんの今後の活動に注目です。

施設紹介

一般社団法人 土佐町スポーツコミッション

住所/高知県土佐郡土佐町田井146-1 
電話番号/0887-72-9919 
HP/https://tosacho-sc.jp/